アタシ、何でこんなことしているんだろう・・・

夕暮れの日差しが2年B組の教室に弱弱しく差し込んでいる。
アタシは今、自分の教室で探し物をしている。あてもなく、他のクラスメイトのロッカーや机の中を、調べている。

探しているものは、アタシの靴。

今日、帰ろうとしたら、アタシの靴箱の中に、黒いストラップシューズが置いてあった。
片方だけ・・・

右側のそれは、もう一方の左側をさびしそうに待っているように見えた。

こんなことが始まったのは、もう一ヶ月も前のことになる。。。
ある朝、上履きを何者かによって隠された。
そのときは、まだアタシには友達が3人いて、一緒に探してくれた。
ただ、その後も上履きだけじゃなく、体操着や運動靴も隠されたり、汚されたりということが続いて、最後まで一緒に探してくれた真奈美まで、アタシから離れるようになってしまった。

こうして、完全にクラスで孤立してしまったアタシは、この陰険なイジメにひとりで耐えていかなければならなくなったのだ。

先生に破かれた体操着や、片方の落書きされた上履きを持って相談しに行っても、翌日朝に匿名でこんな嫌がらせがあった、ということをみんなに言うだけで、何の効果もない。アタシはあきらめて、ただ、時間が解決してくれることを願っていた。

ただ、今日アタシには、クツが無い。
無い、というのは、通学用の靴が無いだけじゃない。
今こうして教室を探しまくっているアタシの足元は、靴下のままなのだ。
もちろん、好きでハダシでいるんじゃない。
アタシの白いバレーシューズは、今頃焼却炉で黒い煤になっているのだろう。犯人は「焼却炉行き」とわざわざアタシの下駄箱にメモを残していたからだ。

もう、埒が明かない。
アタシは、探すのをあきらめて、下駄箱に向かった。
アタシは、真奈美の靴箱の前に立ち、その靴箱を開けた。当然のように先に下校した真奈美の靴箱には、真っ白なバレーシューズが入っている。
勇気を出して、真奈美にケイタイで連絡をとってみることにした。

「もしもし?」
何かそっけない返事が返ってきた。アタシは、今の事情を説明して、真奈美の上履きを貸してもらうお願いをした。
「うん。。。いいけど、上履きじゃなくて、教室にあるアタシの運動靴にしてくれない?今、雨降ってるから上履きだと、ね?」
ありがと。
明らかに嫌々ながらの返事が返ってきたが、贅沢はいっていられない。
お礼をひとこと言って、電話を切った。
何か声をかけてくれるかと思っていたが、何もなかった。

真奈美はアタシをシカトする前の日、上履きを隠された。
たぶん、それで怖くなって、あちら側にまわったんだと思っている。

真奈美のスニーカーを取り出し、履いてみようとした。
ここで、やっと自分のおろかさに気がついた。
真奈美は、特別足のサイズが小さな子だった。アタシは24.5、真奈美は22.5。これじゃ、まだ真新しいスニーカーじゃ履いて帰れない。

結局、真奈美に内緒で、上履きのかかとを踏んで、つっかけるようにしてアタシは、下駄箱を後にした。

バレーシューズに「真奈美」の文字。上履きで帰るのには慣れていたが、他人の上履きを借りて帰るようになるとは。

学校から出て少し歩いたところで、アタシは、黒いストラップシューズの片方が、道端に置かれているのに気がついた。

それが、アタシのものであることに、すぐ気がついた。

クツのなかは、雨でぐっしょりぬれていた。
アタシの心も、ほっぺたも。