一週間前。
 
二年四組の教室に、私と、席が隣の紗枝、さらに一年の時に紗枝と同じクラスで仲が良かった田中美和の三人で、他愛のない世間話をしていた。
ある話題で盛り上がっている中、紗枝がその話をさえぎって、ねえねえ、と小声で呼びかけ、紗枝の左側の方向に指差した。

「ちょっと、あれ・・・まただよ、可哀そうに・・・」

「あぁ・・・また隠されちゃったのね・・・」

紗枝の指差す方向を向いてすぐに気が付いた美和も続いた。
私もすぐに気が付いた。
 
佐伯かなえ。
 
彼女の足元は、紺色のハイソックスのままで、学校指定の上履きを履いていなかった。
 
かなえは、うつむき加減に歩きながら、紗枝の二つ左の列の、彼女の席につき、カバンを机のわきのフックにかけ椅子を引いて腰かけた。
 
「しかし、やってるほうも幼稚だよね。高校生にもなって靴隠しだなんて。」

美和があきれた顔でつぶやいた。

「まぁ・・・でもあの子の性格じゃ、ちょっかい出したくなるでしょ? いつもビクビクしていて背中丸めてさ・・・ねぇ、梨花もそう思うでしょ?」

美和はそういって、私に同意を求めてくる。いつもそうだ。

「そ、そうだよね・・・」

口ではそう相槌を打ったものの、かなえの事が心配でならなかった。

かなえに声をかけてあげたい、かなえの上履きを探してあげたい。
心でそう思っても、あと一歩踏み出す勇気が無かった。二人の友達、クラスメイトの雰囲気。それらが踏みとどまらせる。
かなえは、その日を境に、学校に来なくなった。

今日で四日目。たったそれだけの期間で、そのターゲットが私に移ったということなのか?
 
二時間目の休み時間。紗枝と一緒にトイレに行った。美和にも声をかけたが、私はいいから行って、と
用を済ませた後、個室から出てきた紗枝を捕まえて、ちょっと話があるの、と手を早々に洗って女子トイレを後にし、比較的静かな三階の廊下に連れ出した。

何なの? と不思議がる紗枝に、私は少し躊躇しながら、上履きを片方脱いで紗枝の前に差し出した。

「ちょっ、ちょっと何これ! 信じられない、こんなこと誰がしたの!」

紗枝の反応は、予想通りだった。私から何も言わなくても、その上履きの中に書かれた、
「消えろ」
の文字が与えるインパクトは大きかった。

「もしかして、反対も?」

そう言われるまでもなく、脱ぎ始めたもう片方の上履きを、紗枝は私から奪い取るようにして確認した。

「ねぇ、私どうすればいいと思う?」

弱弱しい声で、紗枝にすがった。改めて、自分の上履きに書かれた落書きを見て、かなえのようにいじめられる日々を送らなければならないのか、それが不安でたまらなかった。

「心配しないで、梨花。私がいるから。友達でしょ? すぐこんなこと相談してくれなくちゃ」