新品のローファーに、新品の上履き。
 
 
学校指定のスポーツバックから取り出して、自分の部屋の机に置いた、二足の靴。
下校途中にある靴屋さんで買ってきたばかり。
 
私は、玲子。
今日は、学校で、うわばきと靴、両方とも誰かに隠された。
 
学校中探したけど、見つからなかった。
 
久しぶりに、翠のケイタイに、電話した。
翠は、私がこうなる前まで、クラスの女子の中では一番仲が良かった。
 
靴が、無い。
体育用の靴も、使うとき隠されては困るから学校に置いていない。だから、私には今日、家に帰るために、履く靴が一足も無いことになる。
 
困り果てて、かけた翠のケイタイ。
途方に暮れた私は、翠の下駄箱を開けた。
そこには翠のうわばきと、体育用のスニーカーが入っていた。
 
体育用のスニーカーなら、外に名前も書いていない。
 
電話の先の翠は、少し気まずそうにしていたが、貸してくれることになってほっとした。
 
翠のスニーカーを履いて、私は学校を後にした。
 
自分の小遣いで、新品の靴二足を買った私は、自宅のカギを自分で開けて家に入った。
いつものこと。母は夕方までのパートに出かけていて、夜7時すこし回ったばかりの今は、家に誰もいなかった。
 
先生にも、親にも、学校でいじめられていることを、相談していない。
いや、相談したくても、相談できない訳がある。
今日も、先生にも上履きを忘れたと、嘘をついて、一日中、来客用のスリッパで過ごしていた。
 
新品の靴と、新品のうわばき。
 
私は、それらに自分の名前を書いた。
無くならないように、隠されないように、願いを込めて。