悩んだ挙句、担任の先生に相談しようと振り返った時、すぐそばに木村君が立っていた。

えっ、何?
びっくりした私は、言葉が出なかった。
 
「どうしたの、相原さん?」
 
木村君がそう話しかけてくれた。木村君と話をするのは、初めてだった。
 
「・・・そうか、靴、隠されたんだね?」
 
木村君は、私の開け放しの靴箱の中に気がついたようだった。私はゆっくりと頷いた。
 
「一緒に探そう。・・・靴に名前書いてある?」
 
一緒に探してくれる? 彼からそんな言葉が出てくるとは想わなかった私は何も返事することが出来なかったが、一呼吸置いて、彼と一緒に探すことを決めた。
名前は、書いてない。・・・それから靴のサイズは二十三センチ。黒い色のハルタ製。
それだけ伝えると、彼は何か心当たりがあるのか、すぐさま歩き出した。どこに行くのか聞いてみると、
 
「男子トイレ。・・・相原さんは女子トイレを探してみて」
 
とだけ言った。
ちょっと待って、歩いて行こうとする木村君に声をかけた。
何せ、靴下のままでトイレに入りたくない。
 
「・・・誰かの上履き、借りればいいよ」
 
振り返り、私の表情と,足元を見て察してくれたのか、そんなアドバイスをくれた。
私は自分のクラスの、女子の靴箱を適当にあけ、二十三センチの上履きを探した。
坂下さん。可愛らしい字体の名前が書いてあるその上履きを借りることにして、それを履いた。

こうして、私と木村君の、靴さがしが始まった。
木村君に少しだけ期待して、それぞれ男子、女子トイレに分かれて探し始めた。
流しの下、掃除用具入れの中、そして便器の中まで蓋を開けて調べた。

無い。

ため息をつきながら、坂下さんの上履きを借りて履いている自分の足元を見て、悲しくなった。

次は二階の女子トイレ。
この学校は、四階建ての校舎がひとつと、体育館があり、校舎には各階に二つずつトイレがある。
そのうち一階には教員用のトイレがひとつあり、私たちははじめから、教員用トイレは探す対象から外していた。
四十分が経過し、四階の東側トイレで木村君から声をかけられた。
 
「相原さん・・・あったよ。」
 
木村君は、女子トイレの前で待っていた。
木村君の左手には、一足のローファー。
 
「・・・これかな?」
 
木村君は私の靴を差し出した。私はそれを手に取り確認した。
一目でそれが私のだとわかった。
確かにはっきりとした証拠は無い。が、黒光りしていて真新しいことが、私のものであることを知っていた。なぜなら、それは先週、靴がなくなって、買いなおしたばかりだからだ。その時は、まだ自分がいじめられることに、気が付いていなかった。
 
「実は、これも・・・」
 
木村君がためらいながら、右手に持っているものを差し出した。
それは、まぎれもなく、私の上履きだった。
「相原」と、自分の字体で、名前が書いてある。
でも、不思議だった。

なぜか、それは片方だけだった。

もう、片方は? と聞いてみたが、木村君は首を横に振った。
男子トイレから靴が出てきただけで、私にとっては十分ショックだったし、裸足で帰ることにならずにほっとしてもいた。