担任の先生に、職員室に呼び出された。
上履きも、靴も隠されて、翠に運動靴を借りて帰った翌日の昼休みのこと。
 
私は、相談室のテーブルに置かれた、私の上履きを見て、しばらく何も声を出すことができなかった。
 
用務員の人が、見つけてくれた、私のうわばき。
側溝の中にあった、私の名前が書いてある、うわばき。
 
もう、嘘も言い訳も、できなかった。
わたしが悪いんじゃないのに、なんでこんな思いをしなきゃいけないの?
 
でも、怖い。あの子たち。。。
 
私は葛藤していた。
先生に、正直に打ち明けるべきか、また事実を隠して、嘘をつくのか。
 
 
あれは、先週の火曜日のことだった。
 
うわばきが無い。
二度目のことだった。
 
前回は、翠が探してくれて、すぐ見つかった。でも今日は・・・翠はいない。
下駄箱の周りをひととおり探しても見つからず、私はしかたなく靴を脱いで、靴下のままで廊下を歩き教室に向かった。
 
教室に入ると、一瞬しんと静まり返って、クラスのみんなが私を見る。
しばらくすると、またみんながおしゃべりを始める。
 
いやな空気。
 
私は勇気を出して、自分の席に向かって歩いた。
 
自分の席について、かばんの中から教科書を取り出して、机の中に入れようとすると、中になにか入っていて入れることができなかった。
いったん教科書を机の上において、机の中を覗くと、うわばきが入っていた。
 
わたしの、うわばき。
 
もちろん、こんな場所に自分でしまったわけではない。誰かが、私の上履きを机の中に入れたんだ。
私は、そのうわばきを床の上にそっと置き、汚れた靴下の裏を少し払って、それを履いた。
 
誰が、こんなことを・・・。
 
そう思ったとき、急に寒気が走った。
トイレに、行きたい。
 
オシッコがしたくなった私は、トイレに行くのをためらっていた。
 
ひとり。
翠も、他の女子も、みんな私を避けている。シカト。
 
授業開始のチャイムと同時に担任の先生が入ってきた。
 
トイレに行くきっかけを失った私は、そのまま朝のホームルームと、間を置かずに始まる一時間目の授業を受けなくてはならなくなった。
 
一時間目の終わりを告げるチャイムが、やっと鳴った。
起立、礼。
日直の声。私はいてもたってもいられず、すぐに自分の席を後にした。
 
「ちょっと佐藤 玲子さん。・・・そんなに慌ててどこに行くの?」
クラスの女子が二人、私の前に立って行く手を塞ぎ、もう一人が背後から声をかけてきた。
 
怖い。
そう感じた私は、すぐに返事をすることができなかった。
「ちょっと、どこに行くのかって、聞いてるでしょ。無視する気?」
 
ト、トイレに。。。
 
私はその、脅しのような声に押されて、正直に目的地を口にした。
私の頭の中は、オシッコでいっぱいになっていた。
 
「そっ。じゃあたしたちも付き合ってあげる」
 
その女子三人と私は、そうして一緒に教室を後にした。
声をかけ、脅してきた子は、私が逃げないように、スカートの腰の後ろのところをぎゅっとつかんでいた。
 
そのあと、私たち四人は、確かに女子トイレに入り、他の三人は用を足した。
そしてまた、私は腰のあたりをつかまれたまま、教室に連れ戻された。
 
教室の扉が閉まり、ほぼ同時に、二時間目の授業開始のチャイムが鳴った。
 
起立、礼、着席。
 
自分の席に座った時、私は激しい尿意に襲われた。
オシッコ、漏れそう。。。
 
休み時間に用を足すことができなかった。私だけ。
 
授業が始まって、やっと十分がたった。
私は、お漏らししそうになるのを、必死に我慢していた。
脚は震え、左手はおなかの下にぎゅっと押しつけて、オシッコの波を抑えようとしていた。
 
でも、もう限界。
 
先生・・・トイレに行ってもいいですか?
 
私は恐る恐る手を挙げ、先生に訴えた。
 
「佐藤、まだ、授業始まったばかりじゃないか? 休み時間にトイレに行かなかったのか?」
 
嘲笑が聞こえてきた。私は先生の問いに、少しだけうなづくことしかできなかった。
 
「しょうがないな・・・早く行きなさい」
 
また少し会釈をして、席を立ち、前かがみになりながら教室を後にした。
なんとか、トイレまでたどり着き、用を足した。
下着やスカートを汚さなくて済んでほっとしたが、女子三人の顔を浮かんできた。
 
怖い。
 
私は、それ以来、誰にも言わず、上履きが無くなっても、体操着が汚されても、我慢した。
 
 
「・・・先生に、何か言いにくいことがあるのかもしれない・・・でもね、これはいたずらにしては悪質だし、こんなことが私のクラスで起きていることに、先生、自分が許せなくて・・・佐藤さん、あなたは何も悪くない・・・先生は味方よ。だから、何か悩みがあったら話してほしいな」
 
相談室の中。見つけてくれた上履きを前に、先生が優しく声をかけてくれた。
私は決断した。すべて話して、楽になりたい。
 
私は、クラスでシカトされていること、上履きや靴を何回も隠されたことを一気に話した。
話して、少し気が楽になった。
 
・・・せんせい、これから話すこと・・・先生だけの秘密にしてもらえますか?
 
そう言って、私は女子トイレであったことを、話すことにした。