怖い。こわい。コワイ・・・
 
一時間目の後の休み時間。
教室を後にして、廊下を10mほど先に行ったところに、女子トイレがある。
 
私たちはその女子トイレに向かって歩いている。
 
早く、はやく、トイレに行きたい。
 
逃げ出したいけど、私の腰は、同じクラスの北河 聡子にしっかり抑えられて、身動きができない。
聡子は度々その腰のところを強く前に押して、私がばたばたと早歩きになったかと思うと、また引き戻されて、完全に遊ばれていた。
 
そんなに、押さないで。体をゆすらないで。
 
おしっこを、懸命に我慢しているのに、無理やり体をゆすられているのだから、たまらない。
 
聡子は、星野 由佳、木島 智美と一緒に、いつも行動している。今もそう。
その三人と一緒に、やっと女子トイレに入る。
 
女子トイレには、四つの「個室」があり、私たち四人以外に、すでに二人が一列に整列して、個室の扉が空くのを待っていた。
 
私は、その列に並びたかったが、無理やりトイレの隅に歩かされた。
 
「じゃ、あたし先にするねー。その子、よろしく」
聡子は、由佳、智美にそう告げて、その待ち行列に並んだ。
 
由佳と智美は、私のことを囲んで、トイレの隅から抜け出せないようになっていた。
 
ちょっと、私、トイレに行きたいから・・・どいてよ。
 
そう訴えても、由佳はふっと不敵に笑うだけで、智美は、私が個室に向かおうとするのを手で強く押し返した。
背中が、トイレの隅の壁にあたる。その衝撃で、また強い尿意を催した。
 
我慢・・・しなきゃ・・・ここで、漏らしたら、だめ。
 
そうしているうちに、聡子が個室から用を済ませて出てくるなり、私のほうに向かって歩いてくる。
「じゃ、次わたしね」
由佳が、聡子とハイタッチして、入れ替わるように聡子が私の前に立った。
 
「・・・あらら、玲子さん? そんなに脚、モジモジして、なんかカッコ悪い・・・ってか、色っぽい?」
聡子が茶化したように言うと、隣の智美がおなかを抱えて笑い出した。
 
「・・・ちょ、ちょっとさとちゃん、笑わせすぎ。わたしおしっこ漏れちゃうよ!」
 
この三人が、このまま私をトイレに行かせてくれないんじゃないかと、そんな予感がした。
 
ねぇ・・・もう、おねがい・・・トイレに行かせてよ・・・
 
聡子の右手を握りながら、懇願した。
 
「だめだめ、順番なんだから。次は智美。ともちゃんだって、漏れそうなんでしょ?」
うんうん、と頷きながら、大げさに腰をモジモジさせて我慢するそぶりを見せる智美。
 
由佳が個室から出てくると同時に、待ってました、とばかりにその空いた個室に駆け込む智美。
あぁ、わたしが、そこに駆け込みたいのに・・・聡子が私の右手を強くつかんでいて動くことができない。
 
さらに、別の女子も個室から出てきて、空きがひとつ出来ても、聡子と由佳は私を取り囲んでいた。
 
 もう、休み時間が無くなる・・・
本当に、このまま、トイレに行かせてくれないの?
 
そう思っているとき、視線の先に、翠がいた。
翠と目があった。でも、そのまますぐにうつむいて、空いている個室に入ってしまった。
 
たすけて。
そう訴えたかったのに。翠には私の今の状況、気持ちが伝わったのかな?
 
身震いするほどの激しい尿意。
 
もう・・・お願い・・・・行かせて・・・・
 
藁をもすがる想いで、聡子の手を握り、訴えた。
 
「そう・・・じゃ、次の授業中に、先生にトイレに行かせてもらえば?」
 
それいいね、由佳と用を済ませた智美が同調する。
次の授業は、男の先生だ。トイレに行きたい、なんて言えないよ。
 
私が首を大きく横に振ると、聡子は冷たく微笑みながら言い放った。
 
「そっ・・・じゃ次の休み時間まで我慢すればいいじゃない。」
「高2 にもなって、お漏らししないでよ! 恥ずかしい!」
 
由佳も一緒にはやし立てる。
 
キーン、コーン、カーン、コーン・・・
 
ついに、休み時間終了のチャイムが鳴ってしまった。
 
「さっ、早く教室に戻らないと・・・そうそう、玲子、今度先生に私たちのことツゲ口したら、みんなの前でお漏らしさせるから・・・わかったわね」
 
聡子の、冷たく、強い目で睨みつけられながら放たれた言葉は、私に強い恐怖と激しい尿意を催させた。
 
 
「・・・だから、私、それ以来、ずっと誰にも言わずに、我慢してきました」
 
倉橋先生は、ただ黙って聞いていてくれた。そして、私が話している間、背中を優しくさすってくれていた。
その手が、私には救いだった。