◇◇
 
 
学は、一階にある下駄箱の、2-4 クラスの前に立っていた。
もうあたりは暗く、周りに人はいない。
「高橋」という姓の名札が付いた靴箱を、目を細めて探し始めた。
 
(あった)
 
「高橋」という名札。もう一度周りを確認して、恐る恐る蓋を開けると、上履きが入っていた。ただ、それはどう見ても、男子のサイズのようだった。その上履きを確かめると、27cm。
 
ここは、まだ男子の列だったんだ。
 
下駄箱はあいうえお順で、左上から右下に並んでいるのが、学校統一のルールだ。
まず男子が先で、次に女子。
「高橋」という、ありふれた苗字が、クラスに複数いてもおかしくない。
 
気を取り直して、もう少し先の「高橋」さんの靴箱を探す。
 
(あった…今後こそ)
 
そう思って、その2度目の「高橋」という名札のついた靴箱のふたを、開けた。
 
空っぽだった。鉄製の靴箱の中に、同じく鉄の「仕切り板」が上下 4対6 くらいの割合で空間を分けているだけで、他には何もなかった。
 
ということは…
 
靴を、男子トイレに隠されて、今「高橋」さんの靴箱が空。まだ学校内にいるかもしれない。
そう思ったところで、学は考えを改めた。
いや、上履きをわざわざ脱いで靴箱にしまい、裸足のまま帰るわけないか。としたら上履きのままで帰った可能性もあるのか…。
可能性は五分五分か。
学は、静かに空っぽの「高橋」さんの靴箱に、ローファーをしまった。
靴箱のふたを閉めて、学は大きくため息をついた。
自分の靴を、探さなきゃ…。
やっと我に返った学は、本来の「目的」を思い出して、また階段に向かって歩き出した。
あとは、5階と、屋上くらいか…。
 
 
◇◇◇
 
 
夕日が、もうすぐ西の果てに落ちようとしている。
屋上からの景色は、今の彼女の気持ちとは裏腹に、とても綺麗だった。
夕焼けが終わりかけ、その上を濃い青色の空が多い、徐々に高くなるにつれ、夜空になる。
「マジックアワー」と呼ばれる、まさに自然が作り出した魔法のような時間と景色が、彼女の目前に広がっていた。
 
そんなとき、ふと屋上につながる、唯一の扉が開く音がした。
 
誰かが来る。
 
彼女は、不安と、何にでも誰にでもすがりたい期待で、胸がいっぱいになった。