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体育の授業が終わった後、更衣室でいじめられ、上履きや体育館履きまで隠されてしまった彼女の悲しさを、学は少しだけ感じ取ることができた。

隠されないように、上履きを毎日家に持ち帰ることまでしていたのに。今、その片方を手に持っているということは、それでもめげずに自分の上履きを探した結果なのだろうと思うと、すごく切なく、また自分のことのように胸が痛んだ。

「僕も…上履き、毎日持ち帰るようにしているんだ」

彼女は、学に振り向いて、驚いた表情をしていた。

「実は…今日も、高橋さんと同じように、靴、隠されて…今まで学校中、探していたところだったんだ。 それで、高橋さんの、靴を見つけて…」

「…そう、だったんだ…」

彼女は、静かに頷いた。
彼女も、僕の気持ちがわかるのだろう。彼女の眼には、その思いがあふれていた。
彼女の靴を、トイレで見つけたということを、学は聞かれなければ言わないことにしていた。トイレにあること自体、屈辱的なのは、学自身がよくわかっていた。

「…ところで、高橋さんは、先生に相談しているの?」

学はもうひとつ浮かんだ、彼女に対する質問を投げかけた。
もう、今まで何回も靴や持ち物を隠されたりしているだろうと、まさかひとりで、この問題を抱えてはいないか、心配になったからだった。

「…、ううん。…先生には、言ってない…」

一呼吸おいて、学から視線を外し少し上のほうを見上げながら、つぶやいた。

「まさか…親にも?」

学は、彼女からの返事に、より不安になって、そう尋ねてみた。

「…うん。親にも、相談したこと…無い」

学の不安は、的中した。
彼女の身長は、およそ160cmくらいで、ごく平均的ではあるが、腕や脚はかなり細く、どこかか弱い印象がある。
その肩や背中には背負いきれない、なにか大きいものを背負っていると、学は感じていた。