◇◇◇
 
彼も、靴を隠されていたことに、奈緒は驚いていた。
本当に偶然、お互い自分の靴を探していて、たまたま彼が奈緒の靴を見つけ、さらにはその日のうちに出会ってしまったのだから。

いじめられるようになってから、クラスの誰も信用できなくなってから、奈緒は自分の気持ちを言える場所を失っていた。ずっとひとりきりで、そのどうしようもない屈辱感や恥ずかしさ、寂しさを抱えていた。

彼になら、素直に話せそうな気がする。

運命的な出会いもあって、奈緒は堅い心のガードを少しだけ緩めた。

先生や親にも相談していないことを言って、彼は、「どうして?」と言いたいような顔をしていた。でも、そんな奈緒のことを心配する表情も見せていた。

「…だって、言ったら…相談したら、余計に…いじめられる…から」

マリアが、怖い。
奈緒は、自分をいじめている中心人物、佐伯マリアが怖かった。
 
 
2週間ほど前の朝のこと。

返して。

奈緒は、マリアの前に立ち、勇気を振り絞って、そう言った。

「はぁ? 何のこと?」

マリアは、奈緒を見下したような視線で睨んだ。

私の上履き、返して。

声が震えそうになるのを堪えながら、マリアに迫った。
その日の朝も上履きが、奈緒の下駄箱から消えていた。その犯人はマリアに違いないと奈緒は思っていた。

マリアの表情が、さらにきつくなる。

「何で、あたしが、奈緒の上履きのことを知っていると? 知らないわよ。…もしかして、私が奈緒の上履きを隠したとでも思っているの!」

奈緒は、マリアの迫力に、何も言えずにいた。
その直後、奈緒の右足の甲に、激痛が走った。

マリアが奈緒に一歩踏み込むと、その足は奈緒の靴下のままの足を踏みつけていた。しかもそのあと、マリアが明らかに体重をその足に乗せて、ぐりぐりと上履きのまま、奈緒の足の甲を踏み続けた。

(痛い。)

その言葉も言えずに、奈緒は両目をつぶり歯を食いしばってその痛みに耐えようとしていた。

「ふざけないでよ。証拠もないくせに、あたしがやったと決めつけるなんて、いい度胸してるじゃん。」

次の瞬間、マリアの手が奈緒の腰に伸びて、スカートのフックを外しにかかった。
突然のことに奈緒は何もすることができず、続いてファスナーを一気に降ろされ、何の躊躇もなく、スカートを床に降ろした。露わになる下着。

きゃっ、やめて|

奈緒は慌てて腰を下ろしそのスカートをもう一度履きなおした。
男子もいる教室の中で、一瞬ではあるが下着姿になり、奈緒の顔は真っ赤になった。

「大体、奈緒の上履き、臭くて汚いから、触らないっつーの!」

クラス中から、冷たい笑い声が聞こえた。
間髪入れずに、マリアは奈緒のすぐ隣に腰掛け、耳元でささやくようにこう言った。

「今度、私を疑ったり、先生にチクったら、ここでパンティまで脱がすからね。わかった? わかったらおとなしくしていることね、ふふふ」

奈緒は、恐怖のあまり、しゃがんだまましばらく動くことができなかった。
 
 
「…私、怖くて…本当に、みんなの前で、脱がされると思うと…怖くて…」

また、奈緒の頬に糸筋の涙が伝って、屋上のコンクリートに小さな後を作った。