◇◇

「ねぇ…よかったら…私と…友達に、なってくれますか?」

彼女から、思いもしなかった言葉が投げかけられた。
学は、まさに、その台詞を自分から言おうとしていた。

つながり。

偶然とはいえ、出会い、似たような境遇で、信じられる友達もいない。
必然とも思える、この出会いに、つながりという言葉を意識せざるを得なかった。

「僕も…友達になって…ほしい」

彼女の表情が緩み、少しだけ微笑んだ。
思わず嬉しくなり、微笑みを返した学は、もう上履きで下校しているという悲しみを忘れていた。
 
◇◇◇

次の日の朝。
奈緒は自分の部屋で、学校に行く支度をしていた。

真新しい、上履き。

机の上に置いてある、昨日買ったばかりのその靴を手に取り、バックの中に入れた。

「…奈緒、忘れ物は無い?」

玄関のところで、奈緒の母が声をかけた。

うん、と返事をして、昨日彼が見つけてくれた、茶色のローファーに脚を入れる。

「上履きは、持った?」

うん、持ったよ。心配性の母を思い、きちんと返事をする奈緒。

「もう、心配しなくていいからね。上履きとか靴なんて、いくらでも買ってあげるから、安心していってらっしゃい」

うん。ありがと。
無言のまま首を縦に振り、カバンを持って家の玄関を開ける。

昨日の夜。

奈緒は、家に帰った後、その日あったことや、今までのいじめをすべて、母親に話した。
破かれたノートや、いたずら書きされた教科書、そして、昨日片方しか見つけられなかった上履きを母の目の前に出して。
母は、泣きながら、謝りながら、愛娘の背中をいたわるようにさすった。
それだけで、大分楽になれた。これも彼のおかげ。

奈緒の胸ポケットに入れたスマホの、メール着信をつげる音が鳴った。

「おはよう。もう家を出た?」

彼からのメールだった。

昨日の帰り道。
彼と電話番号やアドレスなどを交換し、昨日のうちにメールを何通かやり取りしていた。

「おはよう! うん、今出たところ。」

返信メールを打って、奈緒は空を見上げた。
とてもきれいな青空が広がっていた。