1-3 村上
 
そう書かれた靴箱の蓋を開けると、そこは、空っぽだった。
 
「由依…どうしたの…」
 
友達の森田優香から声を掛けられた。優香は学校指定の上履きに履き替えようとしていた。
 
上履きが… 無くて…
 
優香は上履きを履こうとしていたのをやめ、少しだけ背伸びをして、最上段にある、私の靴箱を覗いて確認した。
 
「昨日…ちゃんと、下駄箱に入れて、帰ったよね?」
 
不思議そうな顔で、首を傾げる優香。
 
うん。
 
どうしよう。はじめての経験だった。そこにあるはずの上履きが無くなっていたのは。
助けを求めるように、優香を見つめた。
 
「…とりあえず、先生のところに行く? 由依は、ここで待ってて。」
 
でも…
 
私は小さく首を横に振った。
 
「でも、靴下、汚れちゃうよ。だから…」
 
いいの。私も一緒に行く。
 
優香が話している間に割り込んでそう言った。
わかった、と優香が小さく頷いて、上履きを履き始めた。
青い縁取りのバレーシューズ。
「1-3 森田」と甲の部分に可愛らしい字で書かれている上履きを、私は少しうらやましく思いながら、優香の足元を見つめていた。
 
白い靴下のままで、一階の廊下を優香の後に続いて歩き始める。
足の裏、冷たい。
すれ違う皆が上履きを履いている。当たり前のこと。でも私は上履きを履いていない。
恥ずかしい。
 
優香の後ろにぴったりついて歩いて、なんとか職員室にたどり着いた。
 
「失礼しまーす」
 
職員室の扉を開け、優香があいさつしながら入る。私も優香について職員室に入った。
1年3組の担任である、川島先生の席のところまで歩き、優香が先に会釈して挨拶した。
 
「あら…二人そろって、どうしたの?」
 
川島先生は、20歳代の若い女の先生。優しく、生徒からも好かれている。私も好きな先生だった。
 
「実は、今朝、村上さんの上履きが、靴箱に無くて…」
 
優香が説明する。川島先生は私の足元に視線を落とす。
 
「…そう… 昨日ちゃんと上履き、靴箱に入れたのよね?」
 
はい。
小さく頷いて応える。
会話が聞こえたのか、周りの先生まで、私の足元を見てる。恥ずかしいから、見ないで。
 
「今まで、こういうことは、あった?」
 
いいえ。
「ちゃんと、名前は書いてあるよね?」
 
はい。
 
「…わかった。今日はとりあえず、来客用のスリッパを履いて過ごしてね。場所は、分かるね?」
 
はい。
 
私たちは、先生に軽く会釈をして、職員室を後にした。
 
「…でも、こんな幼稚なこと、誰がするんだろう…まったく」
 
優香はそういって、頬を膨らませていた。
突然、上履きが無くなった。その怒りよりも、不安のほうが強かった。
一体、だれが、私の上履きを。