職員室近くの、来客用入り口近くにある下駄箱に、来客用のスリッパが入っている。
このうちの一組を手に取り、床に置いて、足を入れた。

ようやく、床の冷たさから解放されたが、普段慣れている上履きと違い、「借り物」のスリッパで、頼りないし、みんなと違っていて、恥ずかしい。

パカッ、パカッ、パカッ、…

歩くたびに、私のスリッパの音がする。

そのあと、優香は、昨日のテレビドラマの話とか、ネットで面白い動画を見つけたとか、「学校」や「無くなった上履き」に関係の無い話をしてくれた。私に、少しでも嫌なことを忘れてほしいと思って、そうしてくれていることがわかって、嬉しかった。

でも、優香の話に笑顔で返していても、本当の心の中は、やはり晴れなかった。
どうしても、「無くなった私の上履き」のことが、心にひっかかる。

足元を見れば、すぐに現実に引き戻されてしまう。

どうして? 誰が?
私の上履きは、どこにあるの?

自分の教室のドアを開け、優香と一緒に入る。
すでにクラスの半分以上は登校していて、教室の中で友達と楽しそうにおしゃべりをしている子や、本を読んでいる子、ケイタイでメールかLINEをやっている子、皆各々に盛り上がっていて、私のスリッパ姿に気が付く人はいないようだ。

自分の机の横にあるフックに、カバンをひっかけ、椅子に座ろうとして引き出す。
その時、私は思わず、あっ、と小さく呻いた。

「…由依、どうしたの?」

私と少し離れた席にカバンを置いてすぐに、優子が私の隣にやってきた。
私は椅子の横に立ったまま、少しの間動けずにいた。

上履き。

椅子の上に、上履きが一組。
「1-3 村上」と甲の部分にマジックで書かれた、私の上履きがそこにあった。

「ちょっと…何でこんなところに…ねぇ、ちょっと皆、誰かここに村上さんの上履き置いたの、誰か知っているんでしょ?」
優子は思わず私の上履きを持って高く掲げ、皆に訴えた。

クラスのみんなの視線が、一斉に優子に集まる。
でも、誰もその問いかけに、応えるものはいなかった。

ねぇ、皆…とまだあきらめきれない優香を、私が、もういいからと、持ち上げた右手を下げさせた。
私は、みんなの視線を浴びながら、借り物のスリッパから、私の上履きに履き替えた。

恥ずかしい。