周りは、何も変わらない。
なのに、私だけが、教室にいない。そんな感じ。
 
話しかけようとしても、誰も相手にしてくれない。他の子と話し始めたり、その場からいなくなってしまう。
私だけぼつんと、その空間に取り残される。
 
それだけで、十分だった。

怖い。わたしは、ひとり。

こんなにたくさんのクラスメイトが同じ教室にいるのに。
ひとりぼっち。怖い。怖い。
 
私はただ、息をひそめるようにして、自分の席に留まり、時が過ぎていくのをじっと耐えることしかできなかった。
また何か、いじめられるのでは、と怯えて。
 
でも、結局、朝の上履き事件以外は、何も起こらなかった。
 
次の日も、また上履きが無かった。

今度は、自分の席、机の中にも無い。
 
腰の高さほどの、直方体のごみ箱。
その中に、私の上履き。

無造作に、捨てられたように、その中にあった。
手を伸ばして上履きを取り出し、床に置いて履いた時、聞こえてくる嫌な声。

「ゴミ…」
「ゴミ、拾って履いてるよ」
「汚い」
 
そうか、私は、ゴミ、なのかな。
「ゴミ」扱いされた上履きを履いた私は、その時、先生に相談することに決めた。
 
夕方。放課後の職員室。
 
「失礼します。」
 
軽く会釈をして、担任の川島先生のところへ向かって歩く。
川島先生は、机に向かい何か作業をしていて、私が近づいていることを気が付いていない。
 
「先生、あのぅ…」
 
言葉をかけると、すぐに振り向いて、どうしたの、と声をかけてくれた。
今日、学校で「会話」が初めて成立した。
 
「相談したいことが・・・あるんですけど・・・」

私がそう言うと、先生が立ち上がって、じゃこっちに来て、と、職員室の隅のほうにある、打ち合わせをするようなテーブルと椅子が置いてあるところを指さしながら、私を案内してくれた。

「で、相談って、何?」

私も先生も、椅子に座ったところで、先に先生が切り出してくれた。
私は、もう心に決めていた。

「実は・・・昨日も、今日も、上履きを隠されて・・・」

先生は少し驚いたような表情をした後、すぐに私の事を心配そうに見つめてくれた。

「そう・・・だったの・・・今日も・・・」

先生がそう言いながら、テーブルの下の、私の足元を覗き込むようにして確認する。

「今日は、ゴミ箱に・・・教室のゴミ箱の中に、上履きを・・・隠されて」

「そう・・・つらいね・・・誰か、相談できる友達はいるの?」

友達。トモダチ。
今は、その言葉は、かえって胸に突き刺さるように、痛い。

「いいえ。いません。・・・声をかけても、誰も、返事をしてくれなくて・・・」

「あれ、でも、森田さんと、仲良かったわよね?」

優香。
そう、優香とは友達。でも、今は・・・。
先生からのその問いに、大きく首を横に振ることしかできなかった。