自分の部屋に戻り、机の上に、買ってきたばかりのローファーと上履きを並べて置いた。
ローファーは、新品だから当たり前だが、黒光りしていて、上履きはゴム系の匂いが立ち込めている。

「あっ、これ・・・今日、学校で、靴盗まれちゃったみたいで・・・先生にも言ってあるよ・・・今から靴、買ってこようと思うんだけど・・・」

約1時間前、玄関で迎えた母親から、上履きの足元を指摘された私は、こう答えて、靴を買うお金を暗にねだった。

そう、大変だったわね。

母親はそう言って、あっさりと私に5千円札をくれた。

それで、新しいの、早く買ってきて。お店、閉まっちゃうでしょ。

私は頷いて、上履きからスニーカーに履き替え、上履きをスポーツバックにしまって、足早に玄関を出て、15分ほど歩いたところにある靴屋に向かった。
その靴屋さんで、目的のローファーをすぐに見つけることが出来て、余りが千円ほどになることがわかると、学校指定の上履きも新調することにした。

汚れた上履きについて、もっと母親に突っ込まれるかと思ってドキドキしていたが、やはりこの上履きを明日学校で履くことは嫌だった。

新品のローファーと上履きに、油性のマジックでそれぞれ名前を書き入れると、仰向けにベッドに横たわった。

また、隠されるのかな・・・嫌だな・・・

その日は、なかなか寝付くことができなかった。
 
次の日、新品のローファーを履き、バックの中には新品の上履き、それから体育の授業の時に使うスニーカーを持って、私は学校に向かった。
下駄箱に着くと、私は、自分の靴箱を開け、脱いだローファーと、スニーカーを入れ、蓋を閉めた。
足元には、新品の上履きを履いている。

「あれー、おNEWの上履きじゃん!」
「いいなぁ…」

二人の女子がそう言って、笑いながら私の横を足早に通り過ぎて行った。
誰かはわからない。でもきっと同じクラスの子だろう。

私は、今日何も起きませんように、と願いながら、ゆっくりと教室に向かって歩き出した。

2時間目が終わった後の休み時間、私は不意に尿意を覚えた。
ひとりでトイレに行くことも、もう慣れていた。
ざわついた教室を後にして、女子トイレに向かう。

女子トイレに入ると、すでに3人並んで、4室ある「個室」の空きを待っていた。
その後ろについて、しばらく待つ。

待っている間、寒気がして、急に強い尿意が襲ってきた。
少しだけ、足元をモジモジさせながら、ようやく一番前で空き部屋が出来た。
私は急いでその個室に入り、振り向いてすぐにドアをロックした。
洋式便器の蓋を開け、腰を掛けようとした、その時だった。

いっせーの、せっ!

掛け声が聞こえた。次の瞬間、大量の液体が私の頭の上から降ってきた。

あっという間に、制服がびしょ濡れになるほどだった。
目をこすりながら上を向くと、バケツがふたつ、空になった状態でドアの上にあるのが見えた。そのバケツを支える手も見える。
すばやくそのバケツは姿を消した。

やったねー。
ざまあみろ。

4人くらいの女子の声。

私は、トイレでバケツに入った水を、頭から浴びせかけられた。
制服はもちろん、中の下着も濡れたようだ。
スカートもびしょ濡れ。まるで、お漏らしした子みたいに。

何もできずに、ただ立ちすくんで、今の状況を整理していた私は、思い出したようにトイレにしゃがんで用を足した。
用が済んだあと、私は口を押えて、泣いた。

学校で、泣いたのは、初めてだった。

上履き。新品のその上履きも、びしょ濡れになってしまった。