しばらく、私と母は、何もしゃべらず、母は私の背中をやさしく撫でてくれた。

私は、そうして落ち着いた後、今まで学校であった出来事を、母に話した。
信じていた唯一の友達から無視され、上履きを隠され、いたずらされて、ローファーまでなくなり、トイレで冷たい水を浴びせかけられたこと。

先生にも相談したけど、今度言いつけると、襲わせるという手紙が、ローファーの代わりに入っていて、怖くなって、靴が無くなった、と嘘をついたこと。

「・・・よく、我慢して、学校に行っていたわね。偉いよ。由依。」

母は、私の背をさすりながら、私の眼を見て話しかけてくれた。

「由依。明日は学校、やすみなさい。」

えっ、と思わず声が出た。

「今日、履いて帰ってきた、学校のスリッパを持って、お母さんが担任の先生に会って話をしてくるから。」

おかあさん。でも、でも・・・そんなことをしたら、クラスの子たちから、またいじめられるかもしれない。そう思って首を小さく横に振った。

「いいの。由依は何も悪くない。こんなことをされたら、誰だって学校に行って授業を受けるのがつらくなるもの。いい、由依。上履きとか、ローファーとか、もう気にしなくていいからね。無くなったら、いくらでも買ってあげるから。こういうことをする人のほうが可哀想だ、って思いなさい。堂々としていれば、いつかきっとこんなこと、されなくなるから。」

母がそういうと、頷きながらも不安になった。

「でもね、お母さん。。。上履き隠されると、ショックだし、実際トイレに行く時とか困るし、やっぱり体育の時に、体育用のシューズが無くなると、裸足で授業を受けなくちゃならないし・・・」

母は、そうだよね、と頷きつつ背中をさすりながら続けた。

「だから、困らないように、お母さんと先生で相談するから・・・大丈夫、心配しないで、明日はゆっくり家でやすみなさい。」

母がそういうと、私は、うんと大きく頷いた。
さぁ、お腹空いたでしょ、着替えてごはん食べましょう。
そう母に促され、ようやく腰を上げて、その学校のスリッパを脱いで、自分の部屋に向かって歩き出した。

翌朝、普通ならとっくに朝食を済ませ、制服に着替え、出かけるような時間に、目覚まし時計が鳴り、私はゆっくりとベットから起き上がった。
自分の部屋からリビングにいる母親に、おはよう、とあいさつすると、

「もう少しゆっくり寝てていいのに」

と声を掛けられた。
そうはいっても、習慣で、そんなにもゆっくり寝ている自信が無かった私は、7時30分という目覚まし時計の時間をセットしていた。

焼きたてのパンと、暖かいコーヒー牛乳。レタスとトマトのサラダ。
食卓には、いつもと変わらない朝食。

母と一緒に食べ終わると、時計は8時15分を指していた。
すると、母は、そろそろ電話しないとね、といいながら席を立って、電話の受話器を取った。

「はい、もしもし。1年3組の村上の母です。担任の先生に代わって頂きたいのですが…」

母は、私が今日学校を休むことの連絡をしようとしていた。体は何ともないのに、休むのが何か気まずい。でも、確かにあのクラスに行かなくて済むのはありがたかった。

「…はい。村上です。実は、今日娘が体調を崩しまして…お休みを…えぇ、大丈夫です…それから、今日その、娘のことでご相談したいことがありまして、お伺いしたいのですが…」

相談。私のいじめについての相談だとわかった。その相談にはその先の不安がつきまとう。

「…よろしいんですか…えぇ、分かりました。夕方5時半ごろですね。お待ちしております」

母の、その最後の言葉が気になった。「お待ちしています」。

「今、お休みの連絡をしたわ。相談のことで学校に行こうとしたら、先生、うちにわざわざ来てもらうことになって」

今日、先生が来て、いじめの相談をする。先生に言い出せなかったことでも、となりに母がいることで安心して相談できる、と期待半分、でもやはりその後のクラスの反応が気になって仕方が無かった。