「ねぇ、ちょっとまって、紗枝・・・」

放課後。下駄箱で、加藤優梨子が、同じクラスの友達の北見紗枝を肩をたたきながらそう言った。

「どうしたの?」

上履きからローファーに履き替える途中で呼び止められた紗枝は、振り向くと、困った表情をした優梨子が、下駄箱の前に直立していた。

「靴が・・・私の靴、無い」

小さな声で優梨子が説明すると、上から2段目にある優梨子の靴箱を確認した。
確かに、そこには、体育用のスニーカーはあるが、ローファーは無い。
優梨子の足元は、まだ上履きを履いたままだった。

「ほんとだ。なにこれ! 悪戯? 盗難?  …間違えるわけないよね?」

紗枝は、友人に起きた出来事に対し、腹立たしい思いを口にした。
優梨子は、ショックなのか、困った顔のまま立ちすくんでいた。

「とにかく、まず探そう! ね、優梨子」

優梨子の両肩をそっと叩いて励ました後、紗枝は下駄箱の周りを探し始めた。
一つとなりの下駄箱を確認しようとしたとき、紗枝は思わず優梨子を呼びかけた。

「ねぇ・・・これもしかして、優梨子のじゃない?」

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下駄箱の間の床に、片方のローファーがぽつんと置かれていた。
優梨子は紗枝のところに歩み寄ってしゃがみ、その片方だけのローファーを手に取って確認した。

「うん…名前、書いてないけど…たぶん、わたしの・・・」

「で、もう片方はどこ? こんなことするなんて、頭くる!」

紗枝は優梨子と違って勝ち気な性格で、幼稚ないたずらに怒りを抑えられずにいた。
すると、ほどなく、「もう片方」と思われる、ローファーを発見することができた。

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「ちょっと、あれ、下駄箱の上の、…優梨子のじゃない?」

すぐに向かいの下駄箱の上にある、ローファーを、手を伸ばして掴むと、優梨子も小走りにやってきて、その片方ずつのローファーを突き合わせた。
床に置かれた右側と、下駄箱の上に置かれた左側、サイズも色もローファーのタイプも一緒だった。

「正解・・・! って、こんな悪戯、許せない!」

安堵した反面、友人にされた仕打ちに、その「犯人」に対して怒鳴り込みたい気持ちの紗枝に対して、優梨子は手元に戻ったローファーを見つめて、涙目を浮かべていた。

「誰が・・・誰がこんなこと、したんだろう・・・」

優梨子は不安でたまらなくなっていた。
見つかったとはいえ、わざわざ下駄箱から出し、片方ずつ隠したその見えない犯人に、怒りよりも恐怖を感じていた。

「・・・気にしないでいいよ。適当に選んで、憂さ晴らしにやったんでしょ、たぶん。大丈夫、優梨ちゃんには私がついてるから」

「ありがとう、紗枝ちゃん・・・」

「さぁ、帰ろうか」

「うん」

二人は、床にローファーを置き、上履きから履き替えてそれぞれの下駄箱に入れて、ふたを閉めた。


下駄箱から離れる二人。
その二人の様子を、陰から見ていた女子二人がいた。
その二人は、優梨子たちと同じクラス。彼女たちは、今ふたが閉まったばかりの、優梨子と紗枝の靴箱を暗い視線で見つめていた。

(続く?)