電車に乗り、高校の最寄りの駅に着いた。

いつものように友達二人と待ち合わせ。
いつものように挨拶をして、いつものように他愛も無い世間話をしながら学校までの道程を歩く。
ただ、私の心はいつも通りじゃない。
学校が近づく程に胸が高まる。

上履きが無い。無いんだ。

わかっていても寂しい気持ちになると同時にソワソワしてドキドキが止まらない。

「ちょっと元気なくない?大丈夫?」

友達に心配された。
ううん。大丈夫。すぐに笑顔で否定するも、心の中は大丈夫じゃない。

いよいよ下駄箱の前に着いた。
自分の靴箱の前に立ち、靴箱の蓋に手をかける。
友達二人は、いつものようにさっと靴箱から上履きを取り出し、履き替えている。
私は深呼吸して蓋を開けた。

無い。上履きが。

「ねぇ、私の上履きが無いの...」

友達にそう話しかけた。
友達は靴箱の中を見て、ホントだ、何で?と突然友達に訪れた出来事に驚いている。
周りを見回して私の上履きが落ちていないか探そうとしてくれている。

私は、ただ立ち尽くしていた。
本当に、誰かが隠したり捨てたりして予期しないでこの場面に遭遇したらどうなるのだろう? 結局立ち尽くしてしまうのか、それとも慌てふためいて探し出すのか。

「教室に行ってみる」

私がそう言うと、友達二人は首を振って

「いや、教室には無いでしょ」
「職員室に行って先生に相談した方がいいよ」

結局、職員室に行くことになった。
私だけ上履きを履かずに、靴下のまま冷たい廊下の上を歩き出す。
周りの生徒の視線。
寂しさや恥ずかしさもあったが、それ以上に興奮している。

先生に挨拶して、友達から私の上履きが無くなったことについて説明してくれた。
先生は、これが初めて? と聞いてきた。
私が頷くと、先生から盗難届を書くように私に所定の書類とペンを渡された。
私が書類に、名前や盗難にあった日付、上履き 23.5cm 内側に名前記載あり などと書きながら、
「最近多いのよね。上履きとか、靴とか盗まれること。」
と先生がつぶやいてため息をついた。

先生からは、あまり心配しないで、見つかったら連絡する、また無くなったら遠慮なく言って、と言いながら来客用の茶色のスリッパを私の足元に置いてくれた。